旅するグローブトロッター

海外への旅や出張のときに愛用しているグローブトロッターのスーツケース。手に入れたのは2014年の初冬。この年は春先に旅したタイのクラビ島で結婚することを決め、12月の結婚式に向けて色々と準備を進めていた。そんな中、「婚約指輪のお返しは何がいい?」と聞かれた。毎日身につけられるものが良いなと思い、最初の候補に挙がったのは腕時計。ビジネスにおいても重要なアイテムでその人の趣味や考えが腕時計に表れる。その分マウントの取り合いになることも多く、たとえ百万円の腕時計をしていても数千万円クラスのものが普通にある世界。しかも海外で治安の悪いところに行けば腕ごと切り取られて奪われるリスクもある。そもそも僕は日常では腕時計をしない。これを機に身に着けようかとも思ったが慣れないことをするのは止めておいた。万年筆や革靴など様々な候補が挙がる中で最終的に決めたのはスーツケース。毎日使うものでも身につけるものでもないけれど、末長く使えてどこかへ行くたびに思い出が刻まれる。その中でもグローブトロッターは外観が美しく仕切りのない四角い箱が潔くてその佇まいに惚れた。

さっそく百貨店へチェックしに行くもなかなかのお値段。もしかしたら海外で購入すれば少しは安くなるかと思い知人のフランス人に聞くと、ヨーロッパで代理店をしているイタリア人を知っているとのこと。値段もお友だち価格にしてくれると聞き希望の型を伝えてお願いすることにした。ちょうど9月にパリ出張があるのでその時に受け取って帰国すれば12月に予定している新婚旅行に間に合う。しかし、フランス人とイタリア人のラテン系コンビにかかれば物事はそんなにスムーズには運ばない。在庫確認のやり取りだけで一ヶ月は平気でかかってしまい、結局パリの出張期間中に僕が手にするはずだったグローブトロッターはヨーロッパのどこかを旅していた。手ぶらで帰国することになり12月の新婚旅行にも間に合うか危ぶまれたとき、知人のフランス人が急きょ出張で来日した。僕のグローブトロッターと共に。すぐに彼が滞在していた六本木のレジデンスに行き感動の対面を果たすことができた。

記念すべき第一回目のフライトは当時住んでいた東京から結婚式を行う大阪までの飛行機。結婚式が終わりそのまま伊丹から成田へ、そしてシカゴを経由してカンクンへの新婚旅行へと向かった。しかし真新しかったのはシカゴまで。カンクンに着いた頃にはヌメ革部分はすでに黒く汚れていた。わずか一日にしてエイジング。望んでいた汚れではないけれど、これもまた旅の思い出。このときから海外への旅はこのグローブトロッターと共にある。決して使い勝手が良いわけではなく機能面や移動することを考えたら他にも良いスーツケースはいっぱいある。それでも不思議な魅力がこのスーツケースには備わっている。この三年間、クローゼットに眠ったままのグローブトロッター。再び海外への旅が始動したとき、最初に訪れる街はどこになるだろう。

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